こんにちは。
川﨑文也です。
「トレーナーの基礎力が向上する」1日3分の流し読み問題集 no.17
では、今日も問題です。
問題
ATPを解糖系で再合成するシステムは「速い解糖」と「遅い解糖」の2つのルートに分かれます。
「速い解糖」では発生するのに、「遅い解糖」では発生しない代謝物質はどれでしょう?
A テストステロン
B 脂肪
C 乳酸
D ATP
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正解: C 乳酸
解糖系のシステムではその名の通り、糖質を分解してATPを再合成します。
そして、「速い解糖」では代謝の結果として乳酸が生産されます。
ATP?解糖系???
忘れてしまった人も多いかもしれませんので、少し復習をしておきましょう。
筋肉が動くためにはエネルギーが必要です。
そのエネルギーはATPという分子が分解される時に発生します。
つまり、ATPを分解し続ければエネルギーは無限に生まれ続けるという事になります。
しかし、そうはいきません…。
ATPの数には限りがあります。
すぐに使い切ってしまうので、体中でATPを補給するメカニズムが必要になってきます。
それがこの3つのメカニズムです。
- 無酸素性機構(ホスファゲン機構)
- 解糖系(速い解糖・遅い解糖)
- 有酸素性機構(酸化機構)
今日は、その中の解糖系に触れていきたいと思います。
↓過去分の復習です。
[kanren url=”https://kawasakifumiya.com/atp-time-strength/”]
[kanren url=”https://kawasakifumiya.com/atp-phosphocreatine/”]
[kanren url=”https://kawasakifumiya.com/amp-myokinase/”]
乳酸ができるまで
速い解糖では、グルコースという糖質を使って、リン酸とADPからATPを再合成します。
[aside type=”boader”]
リン酸とADPを・・・
『グルコース(糖質) + 2Pi(リン酸) + 2ADP』
[/aside]
↓↓↓↓
[aside type=”boader”]
ATPに再合成!
『2乳酸イオン + 2ATP + H2O』
[/aside]
ATPが出来たから、これでエネルギーも確保できたぜー!!
と、喜びたいところですが、
なにやら見慣れない文字が…。
勘のいい人は気づいたと思いますが、「乳酸イオン」も一緒に出来ています。
「乳酸イオン」…
「乳酸イオン」ってなに!?
簡単に言うと、「乳酸」です。
- 長い階段を上り続けた時に感じる、脚の疲労感。
- 筋トレの時に「もう体を動かせない」と感じる、筋肉の疲労感。
疲労を感じる時によく話題にでてくる、あの「乳酸」です。
部活あるあるですが、きついメニューの後には
「乳酸やべーー!」と、盛り上がりますよね!
その「乳酸」です。
乳酸 = 疲労?
運動中に起こる筋疲労には、乳酸が大きく関わっています。
しかし、
『乳酸が体内に増える=疲労する』
とは言い切れません。
でも、乳酸と疲労は無関係とも言い切れません…。
では、乳酸が増えると、どうして筋疲労を感じるのでしょうか?
血中乳酸濃度が高まると、水素イオン濃度も一緒に上昇します。
というのも、一般的に乳酸と呼ばれているものは「乳酸イオン+水素イオン」のことです。
なので、『乳酸が増える=水素イオンも増える』ということになります。
そして、
水素イオン濃度が上昇すると、体内のpHが酸性に傾き始めます。
体内が酸性になることで、不都合なことが2つ起こります。
- 糖質を分解させる為の酵素の働きが悪くなる!
糖質を分解できなくなるので、結果的にATPの再合成が間に合わなくなってきます。
- カルシウムイオンとトロポニンの結合が出来なくなる!
カルシウムイオンとトロポニンが結合できないと、筋収縮が起こりません。
そのため筋収縮力が低下することになります。
↓カルシウムイオンと筋収縮についてはこちらをどうぞ
[kanren url=”https://kawasakifumiya.com/atp-calciumion/”]
さらに、水素イオンとは関係ありませんが、これも疲労を感じる要因です。
- そもそも運動の強度が高い!
冒頭のクイズでも出題しましたが、糖質をエネルギー生産に使うと乳酸は発生します。
糖質を使う運動レベルは、高い運動レベルに分類されます。
引用:八田秀雄 著「乳酸を活かしたスポーツトレーニング」
図のように、脂肪と糖を使ってエネルギーは供給されています。
しかし、運動強度が「0」の地点から右方向にずれて、運動強度が上がっていくと糖が利用される割合が高くなります。
糖をたくさん使うという事は、そのぶん乳酸もたくさん発生するということです。
つまり、
『きつい運動をするから、糖をたくさん使って乳酸がたくさん発生した。』
で、あって
『乳酸が発生したから、きつくなる』ではない。
と、考えることもできます。
そもそも、乳酸が発生する運動レベルは、かなりの高強度です。
高強度の運動は、乳酸があろうがなかろうが、そもそも「きつい!」と、いうことです。
ここまでの乳酸と疲労の関係をまとめてみましょう。
- 糖質を分解させる為の酵素の働きが悪くなる!
- カルシウムイオンとトロポニンの結合が出来なくなる!
- そもそも運動の強度が高い!
このような要因が疲労を感じる原因だと考えられています。
乳酸と疲労の関係は、相関関係はあっても因果関係があるとは言い切れないということですね。
乳酸のその後
発生した乳酸は、その後の過程で「乳酸塩」に変化します。
(乳酸塩は「乳酸イオン+乳酸ナトリウムや、乳酸カリウム」などの組合せの事をいい、まとめて乳酸塩と呼ばれています。)
乳酸塩に変化しているということは水素イオンが無くなっているので、体内が酸性に傾くことはありません。
そして、乳酸塩は体に無害なので、そのままタイプⅠ線維(遅筋線維)や心筋でエネルギーとして利用されます。
つまり、乳酸はエネルギー源に変身するということです。
乳酸がエネルギーになるからと言って、大量の乳酸を体内で放置していいというわけではありません。
乳酸と一緒に水素イオンも増えてしまいますので、それは良い状態ではありません。
そのため、過剰に発生した乳酸の除去は素早くした方がいいと考えられます。
軽度の運動をおこなうことで、乳酸を素早く除去することが出来ます。
例えば
- 軽く歩いたり。
- ストレッチをしたり。
です。
乳酸が過剰に発生している今は、高強度の運動でタイプⅡ線維(速筋線維)が優位に働いている状況です。
軽度の運動をおこなうことで、タイプⅠ線維(遅筋線維)が優位になる状況に切り替えることができます。
すると、乳酸をエネルギーとして利用することができ、素早く除去することが可能になります。
最後に、一番重要なこと
最も大切なのは
乳酸を除去することよりも、乳酸を発生させない体力レベルを目指すことです。
引用:八田秀雄 著「乳酸を活かしたスポーツトレーニング」
この図で説明したように、運動強度が高くなると糖をたくさん使います。
糖をたくさん使うということは、疲れやすくなるということです。
例えば、スポーツ選手なら
100mを10秒で走る体力レベルのAさん。
100mを20秒で走る体力レベルのBさん。
この二人が、トレーニングの一環として100mのインターバルトレーニングを行うとします。
100mを20秒の設定で何度も走ります。
客観的には同じ運動強度ですが、AさんとBさんの主観の運動強度は全く違います。
Aさんは余裕をもって走れるので、運動強度は低いレベル。
Bさんは限界ぎりぎりで走るので、運動強度はとても高くなります。
つまり、同じ練習メニューでも疲労感が違ってきます。
Aさんはそんなに疲れていないので、他にもいろいろなトレーニングに取り組むことが出来ます。
しかし、Bさんは疲労がたまり他のトレーニングに取り組むことができなくなります。
どちらの方がよりよい競技生活を送ることができるでしょうか?
そして、一般の人も同じです。
例えば、
駅のホームまでの長い階段を息を切らすことなく上がる体力レベルのCさん。
駅のホームまでの長い階段をエスカレーターでしか上がらない体力レベルのDさん。
この二人の日中に立っている時間がいつもより長かったとします。
客観的には同じ日常を過ごしていますが、二人の主観の運動強度は全く違います。
Cさんにとっては運動強度が低いので、疲労感もありません。
いつもより立っている時間が長かったとしても、家事や趣味などに取り組む余裕があります。
しかし、Dさんにとっては、運動強度が高いレベルだったので疲労が溜まっています。
もう、疲れてしまって家事も趣味も何もする気が起きません。
どちらの方がより充実した生活を送ることができるでしょうか?
なので、疲労を回復する方法も大切ですが、疲労しない体力レベルを目指すことも大切です。
それは、スポーツ選手も一般の人も同じことが言えます。
本日のまとめ
速い解糖システムと乳酸
体内でATPを補給するメカニズムの一つとして「速い解糖」システムを紹介しました。
ATPを補給できますが、糖を使うので乳酸が発生してしまいます。
乳酸と一緒に水素イオンも発生するので
- 糖質を分解させる為の酵素の働きが悪くなる!
- カルシウムイオンとトロポニンの結合が出来なくなる!
さらに、
- そもそも運動強度が高いから疲れるのはあたりまえ!
と、いうような視点から、乳酸と疲労について考えてきました。
乳酸の除去
乳酸(と水素イオン)の除去のために、タイプⅠ線維(遅筋線維)や心筋で、乳酸のエネルギー利用を促進させることが有効です。
タイプⅠ線維(遅筋線維)が優位に働くような、
- 軽く歩く
- 軽くストレッチ
などの軽度の運動がおすすめです。
クールダウンも大切ですね。
体力レベルを上げよう!
同じトレーニング・日常運動レベルでも、その人の体力レベルによって糖の利用割合が変わります。
糖をたくさん使うと、それだけ疲労しやすくなります。
疲労を回復する方法も大切ですが、疲労しない体力レベルを目指すことも大切です。
それは、スポーツ選手も一般の人も同じことが言えます。
なので、コツコツとトレーニング・運動をしていくことはとても重要です!
それでは、今日はここまでです。
[aside type=”sky”]この「トレーナーの基礎力が向上する」1日3分の流し読み問題集は、私が学生時代に後輩たちに向けて配信していたメールマガジンに加筆したものです。内容はNSCAの教本をもとに作成しています。分かりにくい生理学や解剖学を少しでもイメージしやすいようにまとめていければと思います。[/aside]